2012年01月04日

測定ネット・レポートNo.001 産地で判断するのは問題かも。紅茶、野菜、土、井戸水をはかってみると…

■産地で判断するのは問題かも。紅茶、野菜、土、井戸水をはかってみると…
牧下圭貴(事務局)


 生産者と消費者をつなぐ測定ネットワークの測定運動開始を前に、2011年11月から12月にかけてNaI(Tl)ガンマ線スペクトロメータ(EMF211)の測定方法や特徴、測定手順などについて、生産者にサンプルをもらいながらテストを繰り返しました。
 茨城県石岡市(旧・八郷町)の橋本明子さんもサンプル提供者のひとり。橋本さんは、測定ネットの主催団体のひとつ、提携米研究会の共同代表を務めています。
 橋本さんは、米は栽培しておらず、家に隣接した畑で他品種少量で無農薬、無化学肥料の有機栽培を続け、首都圏の消費者に野菜のセットを産直で送っています。ご自身も、元は首都圏の消費者。八郷の生産者とのつながりを経て、自ら八郷町に入り、有機農業を続けています。暮らしぶりも、井戸水を使い、お茶の木を育て、自家用の紅茶を毎年手作りするなど、生活と仕事(農業など)が一体となった暮らし方を続けています。
 3月11日の東日本大震災では、震度6の揺れで、地域は停電し、水道も止まり、ガソリンの供給も途絶えた期間が続きました。電話も通じず、安否が分かったのは地震から数日後のことでした。しかし、橋本さんの家では、井戸水があり、野菜があり、火があり、家は無事でしたので困ることはありませんでした。
 ただ、東京電力福島第一原子力発電所の事故による放射能汚染は、福島県の各地だけでなく関東東北に広がりました。これまで、反原発の運動にも関わっていた橋本さんは、原発事故の情報が入るなり、畑の野菜をすべて収穫し、保存して汚染を逃れました。
 しかし、その後、一時は、農業そのものもあきらめようかと悩んだそうです。しかし、八郷地区には多くの若い有機農業生産者が育っていて、これからがんばろうとしている人たちがいます。彼らのためにも、なんとかがんばりたいと、仲間達でお金を出し合って、海外製の放射能測定器を購入し、ある程度の食品検査ができる体制を整え、栽培も再開しました。

 橋本さんからいただいたサンプルは次のようなものです。
 自家製紅茶(2011年春にお茶の葉を収穫で、紅茶を自家用に作ったものの不使用)、畑のキャベツ、大根、赤かぶ(ラディッシュ)、カラシナ、ターツアイ(いずれも12月収穫)、ユズ(12月収穫)、飲用水としても使っている井戸水、畑やお茶の木の土のサンプルを5カ所採取してもらいました(12月採取)。
 橋本さんの家は、裏に山があり、山ぎわに家と畑があって、少し下ると道路と田んぼが広がっている美しい里山の風景にあります。畑は、家に続いていて、井戸は家よりもやや山側に掘られています。垣根代わりにお茶の木が道路沿いの一段高いところに植えられていて、これを自家製紅茶にしています。
 橋本さんは、今年も例年通り、お茶の葉を摘んで自家用の1年分の紅茶をつくりましたが、お茶からは比較的放射能(放射性ヨウ素、セシウム)が出ると言われていたため、飲まずにおいていました。その後、グループの放射能測定器で簡易検査をしたところ、比較的高い放射能が検出されたため、他の産地の有機栽培紅茶を購入することにしました。
 茨城県の石岡市は、お茶の産地ではありません。かつては、生け垣としてお茶の木を植え、自家製のお茶などにする人もいたようですが、現在ではほとんど残っておらず、出荷用にお茶を作る人もいません。お茶の放射能については、埼玉県、神奈川県、静岡県などから暫定基準値を超える数値のものが見られています。

 測定結果です。いずれも、放射性ヨウ素(I-131)については、事故から時間が経っているため不検出でした。
 そこで、放射性セシウム(Cs-134、Cs-137)のみについて記載します。

 最初に測ったのは、自家製紅茶でした。放射能が出ている可能性が高いと聞いていましたので、330ml、1時間測定を行いました。何度か測定しましたが、いずれも放射性セシウムが、合計10000Bq/kg以上測定されました。放射能測定は、量が少なく、かつ密度が低いと誤差が大きくなります。それでも、だいたい10000Bq/kg以上出ていますので、高い濃度であることは間違いありません。
 ある回の測定結果は、Cs-137 5879.21±82.532 Cs-134 4409.26±81.108 Bq/kgとなりました。

 その後、野菜を測定しました。より放射能が測定しやすいように、フードプロセッサーですりつぶしてから容器に詰めて計測します。
 赤カブ、カラシナ、ターツアイ、キャベツ、大根など、いただいた野菜は、330ml、15分〜1時間の測定で、下限値が30ベクレル程度になりますが、下限以下の不検出でした。参考値としての放射能濃度も0または、数ベクレルで、誤差範囲であり、測定のグラフを見ても、放射性セシウムが出ている状態ではありませんでした。
 木になるユズはどうでしょう。皮付きのままフードプロセッサーにかけての測定です。330mlで1時間測定したところ、Cs-137が97.89±6.723、Cs-134が70.82±6.489と、おおむね170ベクレル程度が測定されました。

 では、水や土壌はどうだったのでしょうか。
 井戸水は、1リットルの専用の容器で、測定下限4.0〜6.0Bq/kgで計測して、下限以下の不検出でした。ただし、測定をした結果として、放射性セシウムが、2ベクレル未満で検出されている可能性がありました。

 土壌は、5カ所。いずれも330mlの容器につめた土を1時間測定しました。
 Cs-137 Cs-134
1 282.94±11.137 196.51±10.533
2 213.16±10.002 152.90± 9.612
3 236.68± 9.544 171.75± 9.226
4 353.41±11.698 260.91±11.406
5 209.97± 8.698 147.80± 8.218

 と、350〜600Bq/kg程度が測定されました。土壌の場合、含まれる水分量などによって差が出てくるため、おおむねこの範囲にあると考えてよさそうです。このうち、紅茶の木の下は1番で、2〜5は畑の土です。

 ここから考えると、紅茶が極端に高いですが、これは、春に収穫したこと、報道等で言われていますが、お茶は古い葉から新芽に栄養を送る性質があるため、事故後に大気中から葉に落ちた放射性セシウムなどが新芽に送られたため、放射能の濃縮効果があったこと、さらに乾燥しているため、相対的に高くなったことなどが考えられます。
 木の実であるユズについては、大気中から葉についたものが原因なのか、その後土から吸収したものが原因なのかは、この測定だけでは判断ができません。
 野菜については、土の中に放射能があるにもかかわらず、ほとんど不検出です。品種や土壌条件によると思われますが、橋本さんの畑では、土壌中に放射性セシウムがある程度(350〜600bq/kg)入っていても、大根などの根物を含め、吸収していないのではないかと考えられます。

 今回橋本さんの畑の土、野菜、茶、ユズ、水を調べましたが、お茶に高い濃度の放射能が出たからと言って、橋本さんの畑の野菜が同様に汚染されているわけではないこと、また、土壌中の放射能濃度が、直接作物の放射能濃度に反映するわけではないことが分かりました。
 今回のレポートで言えることは、産地によって放射能があるなしを簡単には言えないということです。「やはり調べて、事例を積み上げていくしかない」との思いを新たにしました。

■紅茶のセシュームはなぜ高い?
橋本明子(茨城県石岡市・旧八郷町、提携米研究会共同代表)


 うちの畑の一隅には、垣根をかねて、30本ばかりの「紅光」という品種の紅茶の木がうえられている。日本では、他に1カ所栽培されているだけの希少品種で、20数年前、八郷に家を建てたお祝いにと、友人がプレゼントしてくれたものだ。紅茶好きの我が家では、この紅茶がなによりの自慢で、以来、毎年、5月になるのをまちかねて、茶摘みをし、紅茶に加工してきた。毎朝、手作りのパンかスコーンに手作りの紅茶、卵に手作りの野菜をそえるというのが我が家の食事なのである。
 紅茶ばかりか、日本茶にも、製茶の過程では、他の食品にない特徴がある。材料の茶葉には、水洗いする工程がない。うちでは、できるだけ雨がふったあとのきれいな空気のなかで茶摘みをするように心がけてきた。とは言っても、例年茶摘みの前に雨がかならずふるとは限らない。自然そのものの恵みを丸ごといただく気持ちで茶つみをした。
 摘んだ茶は、一晩ねかせてしんなりさせる。翌朝、ミキサーにかけてこまかく砕き、発泡スチロールのケースに湯をはり、お櫃をぬらせて紅茶を入れ、発酵を待つ。やがて茶色に発酵し、紅茶特有の香りをもつ紅茶を、焦がさぬよう、水気をとばす作業にかかる。これがいちばん時間も、労力もかかる仕事となる。一家の半年分の紅茶作り、それも、専門の道具もなく、手と労力と知恵をしぼっての、ど素人の手作り作業である。
 そのかけがえのない紅茶も、放射能に汚染された。自分たちで共同購入したモニターベクレルという簡易測定器で、ぶっちぎりの高いセシュームの含有。わたしは、全身の力が抜けた。紅茶はかおりがよくなるよう、作ってから一年はねかせるのが通例である。今年の紅茶も、まだ飲んでいなかったし、もともと純粋に自家用で、うちに泊まった人でなければ、その紅茶にはお口にかかれない品なのである。
 今度は牧下さんにはかってもらった。彼の報告どおり、セシュームは高かった。うちだけホットスポットということもありうるかと、紅茶の木の下の土をはじめ、まわりの畑の土、野菜、井戸水などもはかってもらったが、紅茶に見合う高さのものはなく、紅茶だけが突出して高いとわかった。茶の木の特性として、放射能を固定しやすいらしいということのほかに、熱を加えて乾燥、加工しているということもあるのかもしれない。
 八郷の農産物で似た傾向のものに、しいたけがある。しいたけは、生のものより、乾燥させると特段にセシュームがたかくなる結果が、ベクレルモニターの計測でわかっている。この計器は、カリュームの分離が正確には出ない(誤差計算しても)うらみがあるが、それでも傾向はつかめるので、参考になるだろう。
 紅茶にしても、今年の生葉は計測できていないので、あたらしく芽がでたら、ぜひはかってもらいたい思っている。何にしても、牧下さんの言葉どおり、たくさんの計測を積み重ねていく以外、道はないと思う。


posted by 事務局 at 12:00| 測定レポート